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2016年11月29日 (火)

ある打診

 今日仕事が終わった後、私はわざとぐずぐずし、同僚の派遣社員が全員ロッカールームを出てエレベーターへ向かうのを見届けた。そして、責任者の社員に入退室のカードを返却するタイミングで、小声で話しかけた。

「あのぅ、例の件ですが、受けさせていただこうと考えています」

 その瞬間、責任者は普段殆ど見せないような明るい笑みを浮かべた。そして、「ここでの立ち話はなんですから」といった感じで、別の場所へと私を促した。ちょっと込み入った話になるという判断に違いなかった。

 私の方も、この日に備えて用意してあるものがあった。契約社員としての雇用契約を結ぶに先立ち、確認しておきたいことを紙に纏め、封筒に入れて持参してあったのである。それを手渡すと、責任者は意外なことを口にした。

「今の派遣のお仕事は2月上旬までになっていますけど、1月から契約社員というのはどうですか?」

 来年1月はまだ、同僚の派遣社員と一緒に仕事をしている時期である。その時期にあえて、契約社員に切り替えるというのである。私は、他の契約社員の目が気になる旨を伝えたが、それはちょっと仕方がないという返事であった。

 派遣の期間中における契約社員への切り替えについて、その責任者は「派遣会社へはこちらから連絡します。重なる期間については買い取りますので」と説明を加えた。“買い取る”とはどういう仕組みなのだろう。派遣元と派遣先の間でのやりとりだから、私は直接関係ないが、両者間の契約でこうした場合における決め事があるのだろう、と推測するしかなかった。

 殺し文句かどうか分からないが、責任者は「今回のことは、柏本さんを評価している結果ですので」とはっきり口にした。私は今までの社会人人生で、上司などに「君のことを評価している」と何度言われ、何度その言葉に処遇面で裏切られたことだろう、と振り返った。「人の褒め言葉を額面通り受け取るのは危険である」とは、私が今までの仕事で身に付けた心得の一つである。

 今回の件、少し心が浮かれながらも、そういう自分に冷却水を浴びせるもう一人の自分がいる感じがする。

(2016年11月29日記)

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