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2016年11月 7日 (月)

電通は変わるだろうか?

 電通で起きた新入社員の過労自殺がこのような展開を見せるとは思わなかった。報道によると、《厚生労働省は7日、労働基準法違反の疑いで、広告大手の電通の本社と3支社に一斉に強制捜査に入った。複数の部署で、労使で決めた時間外労働の上限を超えて従業員を働かせていた疑いが強まり、先月の立ち入り調査に続いて強制捜査に着手した》(朝日新聞デジタル)という。

 残業の実態がこれに似た企業は、世の中に数多くあると考えられる。ゆえに、電通は“氷山の一角”であり、今回の捜査は “見せしめ”的という見方が可能だが、電通は誰もが知る大企業ゆえ、産業界、企業社会に注意喚起し改善を促す意義は大きいと言っていいだろう。

 電通では、残業時間の過少申告が広く行われていたと見られている。元社員がテレビのインタビューに応え、「インターネットに勤務実績を入力していた」と証言していたが、これでは過少申告が行われるのも当たり前である。上司や人事部から、「〇月の残業は□時間以内に抑えるように」と指導されれば、業務量がいかに多かろうと、入力時に勤務時間を“調整”せざるをえない。自己申告による勤務実績の入力(という仕組み)が、残業時間の過少申告を生むインフラになっているのである。

 よく考えてみれば、勤務実態を概ね正確に反映した勤務時間の記録は難しいことではない。社内ネットワークにアクセスした時間とビル(オフィス)に入った時間のいずれか早い方を勤務開始時間として、人事部が捉えればよいのである。このようなシステムの構築は技術的に困難ではないはずだから、旧態依然として自己申告に頼っている企業は、「労働基準法に違反する残業を黙認している」と指摘されても反論できないと思われる。

 違法な残業が一部の部署だけで行われていたならば、そこの管理責任者(例えば部長)が一義的にペナルティを課されるべきだが、社内のあちこちで行われていたならば、トップ(社長)にも大きな責任があると言わざるを得ない。「私は法律を破ってまで仕事をしろとは指示してない」などと社長は言いそうだが、これは自己保身を図った詭弁である。社内で常態化した違法な残業を見て見ぬふりしていたとすれば、社長にも大きな責任があると私は考える。

 過去に、社長主導で社員の残業を極力なくそうと取り組み成果を上げた有名な企業がある。吉越浩一郎さんがその社長で、著書『デッドライン仕事術』(2007年発行、祥伝社)によると、《2006年まで社長を務めていたトリンプ・インターナショナル・ジャパンで、原則として残業を禁止していた》という。業種柄、女性社員が多い企業だったという背景もあろうが、トップが本気で陣頭指揮を取れば、残業すらよしとしない企業となりうるという好例である。

 営利目的の企業にとって、法令遵守は業績拡大という目標に劣後して位置付けられがちである。法律を守ったところで、一銭も儲からないからである。しかし、企業は利益を追求する以前に、法を守らなければ社会的存在として認められなくなる。今回の一件は、そういう当たり前のことを改めて世に知らしめたと思う。

 
「社が直面する課題を共に克服し、新しい電通を作り上げていこう」》(毎日新聞)と社員に改革を呼び掛けた電通の社長は、根深い問題を抱えた現状をどうやって変えていくのだろうか。オフィスを夜10時に一斉消灯したところで、<業務量と人員がアンバランス>という残業の裏にある根本的なところは手付かずのままである。残業時間を抑えるには、今の業務をこなすため人員を増やすか、思い切って業務量を減らすといったことをしないとダメであろう。前者はコストアップ要因、後者は減収要因だから、本気で改革すれば今の業績は維持できなくなると考えるのが自然である。そのようなことが果たしてできるのか……社長の胆力が試されているとも言える。

 5年後、10年後の深夜、電通の本社ビルを外から眺めれば、どうなったかが分かるだろう。灯りが煌々とついていれば、電通は変わらなかったということになる。“新しい電通”については、私はかなり懐疑的である。というのも、企業というのは根っこのところでそう簡単に変わるものではない、と思うからである。

(2016年11月7日記)

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