« あなた | トップページ | “ヘアハラ” »

2016年7月23日 (土)

本来の妻

 妻が主役の話をしておこう。妻は仕事の現場でも、周囲の人たちに軽口を叩いているようだ。ある日のこと。職場の責任者が朝、「今日は誰がスキャン※の仕事をしますか?」と、スタッフ全員に問いかけた。スキャンが苦手で、職場でもそれを公言している妻は、黙っていればいいものを、「残念ですが、私は遠慮して他の人に譲ります」と口走ったらしい。真面目くさった雰囲気の中では、何か一言言わねばならぬ性分なのである。おかげでその日一日、妻はスキャンの仕事をやらずに済んだ。

※)スキャナーで書類等の画像データを取り込むこと。

 その翌朝、責任者が予想外の反撃に転じた。その日のスキャン担当者を決める際、皆の前で「昨日は泣く泣くスキャンしなかった人、いましたよね?」と口にしたらしい。もちろん、妻への当てつけである。しかしこういう時、妻には当意即妙という強力な武器がある。こう切り返した。

「それは“昨日の私”ですけど」

 
スキャンしなかった人は、私ではなく“昨日の私”です、という便法をとっさに講じたのである。結局この日も、妻はスキャンの仕事から逃げおおせたのだった。

 そんな一連の話を妻から聞いていた私は、明日久しぶりに妻が出勤するという日の夜、知恵を授けることにした。「明日は一日、黙って仕事をするんだよ。何か言いたくなってもグッと我慢するんだよ」と言い含めた。妻のユーモアは時に毒気を含んでいるから、万人受けはしない。だから、TPOを考えて慎重に発するべし、というのが私の真意であった。

 さて出勤日当日。夜家に帰ってきた妻に、私は早速「今日は静かにしていたよね?」と聞いた。すると、私のアドバイスは活かされなかったことが分かった。その日は朝から、私の言を守って妻も静かにしていたため、他のスタッフも含め、おしゃべりする人が皆無だったらしい。責任者はその変化を逃さなかったのだが、それが呼び水となってしまった。

責任者:「今日は一体どうしたんですか?シーンとしちゃって」

妻:「いやー、私は本来無口なんで!」

周囲の同僚達(女性):「あははは……」(笑い声)

 妻の持ち帰ったこの土産話に私は愕然とした。「黙って仕事をするんだよ」なんてアドバイスはもうしないようにしようと思い始めている。

(2016年7月23日記)

« あなた | トップページ | “ヘアハラ” »

」カテゴリの記事

短歌・詩・言葉遊び」カテゴリの記事

言葉について」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/573382/63989389

この記事へのトラックバック一覧です: 本来の妻:

« あなた | トップページ | “ヘアハラ” »