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2015年11月30日 (月)

水木しげるさんの思い出

 漫画家の水木しげるさんが亡くなった。妻が「最近テレビとかで姿を見ないから、具合が悪いのかなあと思っていた」という位だから、周囲の方々も覚悟されていたのではないだろうか。93歳という年齢からして、天寿を全うされたという印象を受ける。

 水木さんと言えば妖怪漫画だが、私は漫画よりも水木さんの人生そのものに興味を持っていた。国家に強要され、社会・時代に翻弄された多難な人生が、多くの著書に記されている。私が読んだことのあるものは、以下の8冊である。

・『水木サンの幸福論』(2004年発行、日本経済新聞社)

・『水木サンの迷言366日』(2010年発行、幻冬舎)

・『ゲゲゲの人生 わが道を行く』(2010年発行、NHK出版)

・『人生をいじくり回してはいけない』(2010年発行、日本図書センター)

・『ゲゲゲの老境三昧 水木3兄弟、合わせて270歳』(2011年発行、徳間書店)

・『ゲゲゲの大放談』(2010年発行、徳間書店)

・『水木さんの「毎日を生きる」』(2011年発行、角川書店)

・『ほんまにオレはアホやろか』(2010年発行、ポプラ社)

(通読した順番に記載)

 このなかに、私の頭に忘れられない光景を植え付けた描写がある。太平洋戦争時、生きて帰れぬと言われた南方の戦地に送られた水木さんが、現地で遭遇した体験である。

《戦争中、南方で、ワニのいる川を小船に乗って戦友と二人、渡ったことがあった。いたずらな一陣の風がうしろに坐っていた戦友の軍帽をさらい、川の中に落としてしまった。戦友は、帽子を拾おうと川の中に手をのばしたが、そのトタン、獰猛なワニに襲いかかられたのである。(中略)反対にぼくの帽子が飛んでいれば、(中略)あの川のワニ公の胃袋におさまっていただろう》

(『人生をいじくり回してはいけない』(2010年発行、日本図書センター))

 偶然とはかくも恐ろしいものであろうか。たまたま戦友は、風が吹いて帽子が飛んだためにワニに食われたのである。戦地における戦死でもなく病死・餓死でもない不慮の事故死……そのシーンが身の毛のよだつほど強烈で、私の中に瞬時に記憶として定着した。

 
この体験には考えさせられもする。もしも小船に、水木さんとその戦友が前後逆に乗り込んでいたら、どうなっていただろうか。現実というのは一つのシナリオしかありえず、他のシナリオは想像でしかないが、たかが座る位置が、そして風が生死の分岐点になったというのは、「自分の人生は本人の努力次第」と説く現代の人生訓、処世訓とは対極にあると感じられて仕方がない。

 そもそも私が水木さんに惹かれたのは、悲惨な境遇における懸命な生きざまにある。戦地で片腕を失ったが、戦後はその腕一本で漫画を描き続けて糊口を凌いだ姿を知り、私自身の中に生きる勇気が湧いて、元気が出てきたものだった。何が何でも生きてやるという覚悟をとにかく持てばいいのだ、という境地に到達することができた。そういう自分自身の内面の変化を経て、私は水木さんに大変感謝をしている。

「苦難続きの人生とようやくお別れできたのですね。本当にお疲れさまでした。そして、多くのことを教えて頂きどうも有難うございました」

(2015年11月30日記)

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