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2015年10月10日 (土)

悪意はないが配慮もない不作為(その①)

 こんなことがあった。朝、職場に向かうべく電車に乗っていると、放送が流れて遅れ始めた。運の悪いことに、強風と人身事故と信号確認の三つが重なってしまい、一駅一駅を実にゆっくり進むのである。苛立ちを覚えながら、ようやく降りる駅に着き、改札で遅延証明書をもらったところで、同僚の女性Hさんに会った。彼女も同じ電車に乗っていて、やはり遅刻となる身である。結局二人揃って、始業時間の16分遅れで職場に入った。

 職場には、事前に遅れる旨の連絡はしてあった。しかも遅延証明書があるから、この遅刻は問題にはならない。ただ、時給仕事ゆえ、遅れた分の実入りは減ってしまう。職場の担当者Aさんに、「タイムシートは始業を何時にすればいいですか」と聞くと、「今9時16分なので、9時半からの出勤ですかね」と言う。すると、隣の席にいたBさん(Aさん同様に正社員)が即、「それは可哀想じゃない?」と助け船を出してくれた。それで、タイムシート上、9時15分からの仕事開始となった。

 始まりがこんな日は、平穏には終わらないもののようである。午後に入り、急に仕事が慌ただしくなった。顧客かマネジメントからの要請だと思われるが、「午後○時までに数字を報告する必要がある」やらなにやらで、突然仕事のペースを上げるよう指示が出された。それにより、私とHさんを含む派遣スタッフ数名は、猛烈な勢いで仕事を片付けていったが、定時になっても終わらない。それでまた、小さな“事件”が起こった。

 定時を14分過ぎて、何とか仕事の手元在庫がなくなった。退社しようとタイムシートを取りに行くと、Aさんも、そしてBさんも「助かりました」「有り難うございました」「お疲れさまでした」と言うばかりで、タイムシートは朝のままになっていた。つまり、14分間分の残業代を付けるという配慮をしてくれなかったのである。世に言う“サービス残業”発生である。私は、「時給仕事という就業スタイルでそういうこともあるのか」と思った。

 後日。たまたまHさんと出勤日が重なった時、この日の話になった。分かっていたが、彼女のタイムシートにも残業がついていなかった。Hさんは、「あの時、Aさんに何で(残業代お願いしますと)言わなかったんだろうって、後で思ったんですよね」と正直な気持ちを吐露した。彼女も、心中釈然としないものを感じていたのである。あの日一日を総括すると、朝は遅刻1分を大目に見てもらったが、残業14分を無視されたので、差し引き13分がタダ働きになった計算である。ひょっとすると、タイムシートは15分単位で記入する、という社内ルールがあるのかもしれないが、14分でも残業は残業に違いない。帰宅時間も遅くなり、全くツイてない一日となった。

 今私が書いたことは、金額にすると200~300円という14分間相当の収入を巡る話である。小さな金額である。それで、私は、この“悪意はないが配慮もない不作為”を受け入れることにしたのである。正論を口にして、タイムシートの記入を迫ることもできたと思うが、下手をするとAさん、Bさんの心証を害することになりかねない。そうなれば、今後また新しい業務で人材募集があった際、自分が選ばれない恐れがある。私はこう見えて(?)、リアリスト(現実主義者)でもある。短期的な少額の利益には目をつぶり、長期的な視点に立って人間関係の維持を優先したのだった。

(2015年10月10日記)

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