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2015年2月 2日 (月)

他人の言葉を借りて自分の主張をする

 ある男の話である(以下、A氏としておく)。人材派遣会社に登録しているA氏は、派遣先の職場で数カ月仕事をすることになっていたのだが、ある朝事件が起こった。A氏がその職場に行くと、自分の席が用意されていなかったのである。派遣会社から渡された月間のシフト表では、その日は勤務予定日になっていた。慌てて派遣先の職場の人に確認すると、「派遣会社がデータをきちんと送って来ていないせいでしょうね」というつれない返事であった。

 幸い、その日は業務多忙な日だったので、A氏は追い返されず席を用意され仕事に取り掛かることができた。しかし、A氏は釈然としない。腹が立ったのである。日程を変更したわけでもないのに、派遣先に迷惑をかけて謝る羽目になったからである。この原因は、自分の予定を派遣会社がテキトーに扱ったせいだとA氏には思えた。

 その日の仕事を終えたら派遣会社に電話を入れようとA氏は考えた。「今日は朝から大変な目に遭いました。私の勤務予定日はちゃんと派遣先に伝えてもらっていたのですか?もう二度とこんなことが起きないよう気をつけて下さい!」とくぎを刺そうと思ったのである。至極もっともな言い分である。

 が、A氏は考えた結果、言い方を変えようと思った。さもクレームのように強く言った場合、派遣会社の担当者は、自分に非があったと分かっても、感情を害することは間違いないだろう。そうするとお互いに感情的になり、怒りが怒りを生むという悪循環に陥りかねない。正当性は自分にあるがそれは巧いやり方ではない、とA氏は考えたわけである。

 熟考した末に、A氏はある作戦を思いついた。それは、自分の主張を変えることなく、他の人が実際に発した言葉を使って自らの主張をする、というものである。ここで勘の鋭い人はお気づきになったかもしれないが、A氏は次のように派遣会社に言ったのだった。

「派遣先の人はその朝、私に帰れなんて言いませんでしたが、困った顔をして、「あの派遣会社はきちんと管理してないなあ」と漏らしていましたよ。また同じようなことがあると、ちょっとまずいことになるかもしれません」

 こう言われると、電話口の担当者は神妙に聞かざるをえない。派遣会社はA氏に怒る筋合いはない。むしろ、大事な顧客である派遣先の様子が分かって助かったと感じただろう。A氏の方は、これでそれまでテキトーだったシフト管理が正されるのであれば、当初の目的を達したことになる。

 最後に、
現在のA氏の様子を書いておこう。ひと言で言えば、仮説検証中である。自分の席がないという目に二度と遭わないことを祈りながら、自分が捻り出した策に効き目があったのかどうか、毎朝職場で座席を探して確認作業を続けている。

(2015年2月2日記)

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