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2015年2月21日 (土)

地方の流儀

 人と会っていて、その方の出身地の地域性が感じられないようになって久しい。方言や訛りははっきりと分かるのだが、「そう行動するの?」「そういう風に考えるの?」と驚かされることはまずない。日本中にテレビが行き渡り、情報化社会になり、さらにネットの時代になったことで、私たちは同じような価値観や振る舞い方を身に付けるようになったのだろう。

 一冊の本を読めば、たいてい複数の発見がある。『老いの整理学』(外山滋比古著、扶桑社)も例外ではなかった。地域性に関して、次のような興味深い記述があった。

《昔は、人前で笑ってはいけない、としつけた。相手に失礼に当たるというのである。おかしいことがあっても、ぐっと笑いをこらえて我慢しなくてはいけない。

 戦後になっても、そういう考えが強く残っている地方があった。

 ある人が頼まれて、東北のある町で講演に行った。なるべくおもしろい話をと、いろいろ工夫して話したのに、会場はクスリともしない。拍子抜けした講師はひどく疲れて話を終えた。控室でお茶をすすっていると、いまの話を聞いたという人が、なにやら聞きたいことがあると言って入ってきた。

 講師が、話はおもしろくなかったのかとその人に聞くと、その人は、とても、おもしろく、おかしいところもあって、笑いたかったが、“笑ってはいけない、と教えられているので”こらえているのが大変だったというようなことを話したので、講師はびっくり。そして少し安心したそうである》

(『老いの整理学』(2014年発行、外山滋比古著、扶桑社))

 他にも、地方について忘れられないエピソードがある。あいにく正確な文章は手元に残していないのだが、五木寛之さんの著書『生きるヒント 自分の人生を愛するための12章』(1993年発行、文化出版局)で知った、京都のマナーに関する話である。

 
東京の有名デパートのPR誌担当者が、京都の一流料亭の女将さんに対談を申し込んだ。が、女将さんが断ったので、担当者は別の人に依頼してそれっきりになった。ところが女将さんは、オーケーするつもりで、実はその方から再度の依頼が来るのをずっと待っていたという。品や奥ゆかしさの観点から、依頼はすぐに受けるべきものではなく、一度断わるのが流儀だと思っていたというのである。これは、少なくとも現在の日本ではかなり珍しい流儀と言えるだろう。

 今の時代は、笑うことが健康上も人間関係上も大いに推奨される時代であり、すぐに返事をすることがスピード重視のビジネス社会で求められる時代でもある。私自身、地方に居を構えた経験がないため、地方の流儀に対する郷愁めいたものは感じないが、今日挙げたような流儀はこれからも残り続けてもいいのになぁという気がする。金太郎飴の日本では、なんだか面白みに欠けると思うのである。

(2015年2月21日記)

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