« アドラー心理学と大平光代さん | トップページ | 「売れるから」という理由で増える本 »

2015年1月20日 (火)

好きな女の子の家に電話をかけるということ

 最近、ある人がこんなことを教えてくれた。「今の若い世代には、会社にかかってくる外線電話が怖くてなかなか取れない人がいるらしい」。若いというのが何歳くらいの層なのか私には見当がつかないが、かつて“電話は3コール以内に取るように”と会社で教えられた私には考えにくいことである。スマホ等に慣れた若い人は、誰からのものか分かる電話は問題ないが、相手不詳の電話には免疫がない(ストレスを感じる)、というのがどうも真相のようだ。

 これはかかってくる電話を取る話である。が、今日の主題は逆に、自分から電話をかける話とさせて頂こうと思う。というのも、阿川佐和子さんの著書『叱られる力 聞く力2』(2014年発行、文藝春秋)に、自分の青春を想い起させる、電話をかける長~いくだりがあったためである。

《昔の男たちは必死だったと思いますよ。だって携帯電話がない時代ですもの。

 近づきたいと思う女の子に電話しようと思ったら、相当の覚悟を必要としたのです。

「もしもし、平尾さんのお宅ですか?」

「そうですが」

 思い切って電話をしたところ、電話口に出てきたのは不機嫌そうな年配男の声。それはまぎれもなく意中の人の父親です。

「えーと、あの、マルコさん、いらっしゃいますか」

「どなたですか」

「あー、その、僕、マルコさんと同じ大学の松井と申しますが」

「だから?」

 会話はどんどん険悪な雰囲気になっていく。しかしここで諦めたら可愛いマルコちゃんとお話することができない。松井君は頑張ります。

「あの、明日の心理学の授業のことでお伝えすることがありまして」

「ああ、そうですか。しかし今、マルコは留守をしてましてね。私がご用件を伺っておきましょうか」

「あ、いや、それだったら、また、かけます。どうもお邪魔しました」

 受話器を置いた後まで不機嫌な父親の声が耳から離れず、内心、もう一度電話をする勇気は萎えてしまうけれど、それでもめげずに時間をおいて、再び電話をし、その結果、憧れのマルコちゃんと話ができたときの達成感はどれほどのものだったでしょうか。この厳しい関所を通過しないかぎり、欲しいものを手に入れることはできなかったのです》

(『叱られる力 聞く力2』(2014年発行、阿川佐和子著、文藝春秋))

 私は上の会話を読んで昔を思い出し、胸がキュンとした。阿川さんは女性であるのに実に鋭い。仰る通り、携帯電話もなかった時代には、男子が好きな女の子に連絡を取りたい時は、家に電話をしなければならなかったのである。その時、家人が受話器を取ってしまったらどうしよう、と随分緊張したものだ。女の子本人が出たら出たで何と言おうか、セリフを考えてメモ帳に書きつけたりしたものだが、最大の鬼門と言えた父親が相手となると何を言われるか予想がつかず、セリフも用意できずに気が気ではなかった。結局私は学生時代、二度ほど清水の舞台から飛び降りたが、女の子の家に電話をかける直前には心臓の鼓動が自分で分かるほど激しくなった。片思いの淡い恋心を現実の恋愛へと実らせるために、男子には勇気ある行動が必要だったのである。

 
それが今の世は、若い世代はフェイスブックやラインにより、当人同士が1対1で連絡を容易に取りあえるようになったという。好きな女の子の父親と対峙する恐怖を感じたことがない男子は、違う人種のようにも感じられる。彼らには、私がかつて電話を前にして抱いた(その子と話せるかもしれないという)期待感と(父親が出てきたらどうしようという)緊張感はもはや想像できないものかもしれない。過去三十年ほどの間に、コミュニケーションのあり様が劇的に変わったことがよく分かる。

 
1対1で連絡を取るのが当たり前であれば、まるでスピードデーティングのように、効率的に1対1で恋の白黒をはっきりつけることが可能になったということだろうか。それは、私にはちょっと味気ない気がするのだが、今日私がこんなことを書いたのは、恋愛の前にあるはずの障害がなくなった若い世代へのひがみの表れかもしれない……。

(2015年1月20日記)

« アドラー心理学と大平光代さん | トップページ | 「売れるから」という理由で増える本 »

人間関係」カテゴリの記事

社会全般」カテゴリの記事

若者・就職」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/573382/61001278

この記事へのトラックバック一覧です: 好きな女の子の家に電話をかけるということ:

« アドラー心理学と大平光代さん | トップページ | 「売れるから」という理由で増える本 »