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2014年12月18日 (木)

企業の希望退職募集を考える

 社名を伏せる意味はもはやないかもしれないが、今年、大規模な顧客情報漏えい事故を起こした通信教育会社B社が今月2日、グループ全体で300名程度の希望退職を募集すると発表した。情報漏えい事故による費用計上もあって、B社は今年度の業績を赤字と見込んでおり、創業以来初めてとなる希望退職募集は、直接的なコスト削減を図るものと言える。

 私には、“希望退職”という言葉を聞いて思い出す本の一節がある。経営コンサルタント・大前研一さんの著書『サラリーマン「再起動」マニュアル』(小学館)である。次のようなことが書かれている。

《もし、あなたが勤めている会社がリストラで希望退職を募ったり早期退職制度を設けたりしたら、それを利用して転職することをお奨めしたい。なぜなら、そういう会社は自ら将来性がないと認めたことになるからだ。そんな会社に長居する理由はない。希望退職や早期退職を募った会社に残った人は、たいがい割を食っている。私が知る限り、辞めて後悔した人と残って後悔した人では、後者が圧倒的に多い。また、希望退職や早期退職の制度ができたら、すぐに応じたほうがいい。条件は最初のフェーズが一番良く、後になるほど悪くなっていくからだ。(中略)私なら、第一フェーズの応募期限ギリギリに申し出る。それまでにスキルを磨いたり、転職先を探したり、次の準備をする。そのぐらいの周到さがなければ、ビジネス新大陸では生き残っていけないのだ》

(『サラリーマン「再起動」マニュアル』(2008年発行、大前研一著、小学館))

 大前さんらしい切れ味鋭いアドバイスである。サラリーマンは、知っておいていい考え方だと思う。この大前さんの文章はサラリーマンの視点に立ったものだが、リストラをする経営者の側から見ると、どういうことになるのだろうか。私が頭の中で思い描いたのはこんなシーンである。

 今、沈みかけている船がある。大勢の人が乗っていて、船底には穴が開き海水が流れ込みつつある。人力で船から海水をかきだせば陸に着けるかもしれないが、放っておくと全員は助からない、という状況である。そして船長は、何人かの人に船から降りてもらわなければいけないと考えるが、船にはどういう人に残ってもらえばいいだろうか。

 船を少しでも陸に近づけるためには、“海水をかきだせる腕力のある人”となろう。厳密に言えば、体重と腕力の兼ね合いを見て、船を沈ませてしまう体重以上に、海水をかきだす腕力でプラスの貢献ができる人、ということになる。残酷にも見えるが、船長すなわち経営者としては、こういう視点が必要だろうと思う。

 単に希望退職を募るやり方だと、企業は腕力のある人材を失い、腕力がなく体重が重い人を抱え込んで船を進めることになりかねない。これは賢明なやり方ではないと私は思う。もし腕力と体重の面から一人一人の社員の処遇を考えられないとすれば、それはその会社の人事評価のインフラが脆弱なためだと推察される。長年に亘り社員の人事評価を積み重ねてきていながら、残って欲しい人材と去ってもいい人の見極めに真剣に取り組んでこなかったことを示唆している、ということであろう。

 さて今日12月18日は、B社の希望退職の募集開始日である。残るか去るか、態度を決めかねている対象者の方々は、落ち着かない年の瀬を迎えることになりそうだ。

(12月18日記)

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