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2014年11月28日 (金)

段ボール開封手こずり事件

 以前、こんなことを経験した。二十代前半と思われる男性とペアを組んで、あるところ(職場)で短期(一週間程度)の仕事をした。担当業務を私が統括し、彼は私を補佐する役回りである。

 彼は見た感じは、もやしとかマッチ棒と形容するのがぴったりの、線が細い印象だった。そんな彼のもとに一日目、業務上開封しなければならない段ボールが運ばれてきた。私は他のことをしながら、段ボールが開くのを待っていたのだが、1~2分経ってもその気配がない。彼に近づいてみて、驚いた。彼は、ハサミで段ボールに貼られたテープと格闘していた。まだ開封作業の途中であった。

 その場にカッターがあれば、それを使うのが早いだろうが、無い場合は素手でビリッとテープを剥がすべきところである。その時は時間があまりなかったので、悠長なことはしておられず、私は「こうやって開ければいいんだよ」と言いながら、彼の目の前で段ボールを開けてしまった。

 大人の年齢で、手際よく段ボールを開けられない若者がいるというのは、衝撃であった。学生時代の部活動・サークル活動、家の引っ越し、アルバイト経験などで、段ボールを開けるくらいは朝飯前だと思っていたからだ。彼はハサミで丁寧に開けようとしたのかもしれないが、段ボールに再利用の予定はなく、しかも内容物は重要書類であり誤って傷つけたりできない類のものであったから、どう考えても素手で開けるのが正解という状況だったのである。

 その彼は、朝職場に来る時間も、ぎりぎりのタイミングだった。電車が一本遅れれば仕事の開始に間に合わず、減給のペナルティを課されるに違いなかった。しっかりした社会人であれば、定刻の10分くらい前には到着して、仕事に取りかかる準備をすると思うだが、彼にはそうした考えはないらしい。線は細いが、そういうことを気にする繊細さはどうも持ち合わせていないようだった。

 朝彼が時間に間に合わなければ、ペアを組んでいる私も少なからず影響を受ける。そこで私は、「もうちょっと早く来た方がいいよ」と言おうかと思った。が、考えた末に自重することにした。彼とはたまたま数日間一緒に仕事をすることになっただけの関係である。この仕事が終われば、もう一生会うことはないだろう。そう思うと、「言ったところで何になる?」という冷めた気持ちになった。

 しかも、私は彼のことを全く知らない。社会人の先輩として、親切心を起こしてアドバイスしても、余計なお世話と捉えられるばかりか、反感を持たれて、帰る途中に果物ナイフで刺されないとも限らない。そんなことまで想像してしまって、やり過ごすことにした。仕事中も、その他気になる点は多々出てきたが、私は彼に一切指摘しないことに決めたのである。

 正社員ではない短期の仕事における大きな問題点がここにある。ごく短期間でしか働かない立場の人は、しかるべきアドバイスなり教育を受ける機会に恵まれない可能性が高そうだ、ということである。“感じる力”や“気づく力”があれば、いちいち人から言われなくても成長できるだろうが、彼の場合はKY(空気を読めない)の部分もあり、私が段ボールを開封する様子を見て、そこから素手で開ける意味などを汲み取ってくれたのか、甚だ疑問に感じられた。

 ここまで、彼と一緒にいた数日間を思い出しながら一気に書いたが、「彼に教えようしなかった自分は、冷たい人間ではないか」という心穏やかではない気がしたのも事実である。しかし、それでもやはり後悔の念までは生じなかった。懇切丁寧に伝えたとして、彼が吸収してくれたかどうか分からない上、感謝されたかどうかも分からない上、そもそも彼がどういう人間かも分からない上、もう会うことがない間柄だったからである。

(11月28日記)

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