« 散骨が当たり前になる日 | トップページ | 「おすすめの本は?」は答えられない »

2014年7月11日 (金)

お客をえこひいきする時代

 テレビ東京の経済番組『カンブリア宮殿』(6月19日)を観ていて、とても面白い企業に出会った。ラッキーピエロというハンバーガーチェーンである。現在、北海道の函館市とその周辺に、集中して16店舗を展開している。地方都市で力をつけた外食チェーンは、一旗揚げようと東京進出などを考えたりするものだが、創業者の王一郎社長には、そういう色気はないらしい。地元北海道の食材を極力使い、ナショナルチェーンにはない独特のメニューと食事空間を地元客に提供し、常連客を増やしていくという地道な戦略を採り続けているようである。

 
一緒に番組を観ていた妻が、「そういえば…」と言って、一冊のファイルを取り出してきた。新聞記事の切り抜きファイルである。閉じてあったのは、2009613日付の日本経済新聞・日経プラス1に掲載されていた全国のご当地バーガーランキングで、それを見ると、ラッキーピエロは2位以下を大きく引き離し1位にランクされていた。何年も前から知る人ぞ知るハンバーガーチェーンだった、というわけである(「そういえば…」と思い出した妻の記憶力にも驚かされた)。

 このラッキーピエロには、地域No.1戦略の一つとして、『サーカス団員制度』という独自の常連客優遇システムがある。番組で概要が紹介されていたが、沢山食べて頂くお客さまほど、割引率が高くなどの優遇があるもので、最上位のクラス『スーパースター団員』になると購入額の6%もの還元を受けることができる。なるほどと思った戦略だったが、戦略を説明する王社長のご発言に、微妙に引っ掛かる言葉が登場した。次のように仰ったのである。

《僕は、常連客は“えこひいき”されるべきだと思っている。もちろん精神的には購入額が100円でも1万円でも平等だが、もし両方のお客がいるとしたら、1万円を使ってくれるお客に「5%値引きする」のが普通だと思う。つまり、超常連客をどうやってつくるかがビジネスで一番大切なことじゃないかなと思っている》

《うちのスタッフに「常連客をえこひいきする」という気持ちをもってもらいたい。例えばお客さまが20歳から40年間店に通い続けると192万円分も食べてくれる。これは数字で表しておかないと、スタッフは毎回500600円使うお客さまが、来店回数が今日で600回目、800回目とかイメージが持ちづらい。具体的な数字で表すと非常に分かりやすい》

 
言葉の揚げ足を取るつもりは全くないが、“えこひいき”が気になった。おやっと思う言葉に出会ったときは、まず辞書である。『広辞苑』(第四版)によると、意味は《みなに公平でなく、ある人を特にひいきにすること》であった。私は“えこひいき”はネガティブなニュアンスの言葉だと思っていたが、先入観を持っていたかもしれない。要は、公平ではない、ということで、厳密に善悪に立ち入った意味まではないらしいことが分かった。

 
この“えこひいき”について、正面から切り込んだビジネス書を以前読んだことがある。それが『お客様は「えこひいき」しなさい』(高田靖久著)で、参考になりそうな箇所を引用してみたい。

《「全てのお客様に同じサービスを」 これって、本当に顧客満足を高めているのか?(中略)いつも利用している客からしてみるとどうだろう?「私と他の客を、いっしょにしないでよ!」。そう思うのが普通ではないか?ここに、顧客不満足が生まれている。しかも常連客に、だ。不満がたまった客は、いつしかその店から離れていく》

《大事な客とは、利用回数が多い客ではない。(中略)大事なのは累計だ。つまり、あなたの会社に、累計でたくさんお金を落として帰る客。やはり商売。会社に多くのお金を払っている客が、会社からすると大事な客ではないか? その客を見つけて、「えこひいき」しなければならない》

《(ラグジュアリー・ホテルの)リッツ・カールトンでは、「全ての客に同じサービス」を提供しているのだろうか?答えはNOだ。世界最高レベルのサービスを提供しているリッツ・カールトンこそ、「世界最高レベルのえこひいき」を行なっている。決して全ての客を平等になんか扱っていない》

(『お客様は「えこひいき」しなさい』(2008年発行、高田靖久著、中経出版))

 まさにラッキーピエロの戦略と符合する内容である。加えて私は、ここで別の表現も使ってみたい。ラッキーピエロの“えこひいき”は、優遇を通しての“ファン作り”と捉えることができると思う。自社の“ファン”と呼べるお客さまを増やすメリット付与が、さらにコアな“ファン”を生み、また口コミで新たな“ファン”を呼び込むという好循環が期待されるのだろう。そう考えれば、“えこひいき”は、企業の戦略として、納得も共感もできるものである。

 
さて、上に挙げた業界とは異なるが、進学校で知られる某私立高校で、経済的に困窮している家庭の生徒を対象に、授業料免除を打ち出したところがある(来年度から実施予定)。これも一種の“えこひいき”であるが、私が学生の頃は高校でこうした制度はなかったと記憶している。少子化の進展を背景に学校間の生徒の獲得競争が激しさを増し、かつ世帯平均年収が下がってきている状況下、勉強ができかつ進学意欲のある生徒(及びその家庭)を高校側が切り捨てたりせず、逆に大事な“お客さま”とみていることが推察される。

 
私は、この高校の授業料免除は英断だと思う。『カンブリア宮殿』を観て“えこひいき”という言葉に引っ掛かりを覚えたが、授業料免除で考えさせられたように、“えこひいき”の狙いや中身こそが大切であって、“公平ではないこと”が合理的で理解しうるものであれば、“えこひいき”を受け入れられると感じた。今回私が得た教訓になるが、“えこひいき”の語感に引きずられずに、社会のあちこちで見られる“えこひいき”をじっくりと観察し吟味してから自説を持つようにしようと思う。

(7月11日記)

« 散骨が当たり前になる日 | トップページ | 「おすすめの本は?」は答えられない »

企業経営」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/573382/59897684

この記事へのトラックバック一覧です: お客をえこひいきする時代:

« 散骨が当たり前になる日 | トップページ | 「おすすめの本は?」は答えられない »