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2014年7月 8日 (火)

厭戦家という生き方

 今日は、漫画家・蛭子能収さんのお話から。テレビでのお姿や様子から、優しく温厚なお人柄が伝わってくる方だが、著書『こんなオレでも働けた』(2007年発行、蛭子能収著、講談社)に、《オレは昔から怒られても頭にきたり、逆ギレしたりしたことがない》というくだりがあった。怒らないでいるというのは、大変なことである。相手の出方に関わらず自分は怒らないでいられる根底には、どういう考え方があるのだろうかとずっと思っていたところ、ご本人を特集したテレビ番組で疑問が氷解した。

 
6月15日(日)放映のテレビ番組『ソロモン流』【賢人:蛭子能収】(テレビ東京)で、番組案内役の船越英一郎さんが投げかけた指摘、「蛭子さんが怒っていらっしゃるのを見た事がない気がします」に対し、蛭子さんは次のように分かりやすく説明されたのである。

《あんまり本当に怒らないですね。こっちが怒ったとしますね。そしたら怒り返された。こっちもまたそれ以上に怒る。今度は向こうが武器を出してくる。こっちはそれに負けないように何か(武器を)出さなくちゃならなくなる。要するに、怒った先には誰かが死ぬっていうイメージが膨らむんですよ。漫画的発想なのかもしれないですけど、そういうことをとにかく避けたいっていうか。本当にガンジーさんのような姿勢ですね、気持ちは。何があっても怒らずにとにかく平和に済ませる。これをいつも考えてます》

 
そういうことだったのか、と私は思った。蛭子さんは、怒りというものが喧嘩や戦争、果ては死に繋がる火種として認識されていたと分かったのである。しかも、“非暴力主義”を貫いたガンジーにまで言及されたことで、これは蛭子さんの生き方の根本を形成している思想なのだなと感じられた。

 
蛭子さんのコメントを聞いて、思い出した方々がいる。戦うことを嫌う厭戦的な考えをお持ちだった、田川水泡さんと三國連太郎さんである(ともに故人)。田川水泡さんは戦前に『のらくろ』ブームを巻き起こした漫画家で、戦後は軍国主義を子どもに吹き込んだ漫画を描いたと批判されたこともあったが、実は反戦思想の持ち主であったことが知られている。それを窺わせる文章が著書にある。

《もし敵に出あったとしても、それは人間なのだから、狙って弾を撃てば相手は死んでしまう。そんな人殺しはしたくない。なんて言ってりゃ自分がやられちゃうんだから、敵愾心を燃やせということになるのだが、私には人間に向かって銃を撃つような度胸はない。こんなのを“意気地なし”と軽蔑するなら軽蔑されてもよい》

(『のらくろ一代記 田川水泡自叙伝』(1991年発行、田川水泡・高見澤潤子著、講談社))

 
俳優の三國連太郎さんは、太平洋戦争時、逃亡して徴兵忌避を図ったことがある方だが、お国のために命を捨てるのが当たり前だったあの時代に戦争に背を向ける行動に出た裏には、人とぶつかることすら嫌だと思う三國連太郎さんの人間性があったことが分かる。

《私は人を殴るどころか、いさかいすらしたくない性分なのです》

(『生きざま死にざま』(2006年発行、三國連太郎著、KKロングセラーズ))

《僕はまったく役立たずな兵隊で、前線で、鉄砲を一度も撃ちませんでした。撃てなかったんですねえ》

(『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』(2013年発行、宇都宮直子著、中央公論新社))

 
蛭子能収さん、田川水泡さん、三國連太郎さんは、厭戦家という生き方をされている(いた)のだと私は思う。これは一見、“軟弱”、“弱虫”といったレッテルを貼られそうなものだが、人からなんと言われようと争いごとをしないというのは、本当は強靭な心がないと貫けないものである。人々が不寛容になり、刺々しさが漂っている今の世の中、厭戦家の心持ちには大いに見習うべきところがあるように感じる。

 
蛇足ながら、私の場合、幸いなことに怒りを鎮める効果的な方法がある。それはこのブログを使って、自分の気持ちを吐き出してしまうことである。腹立たしいことがあれば、固有名詞は伏せた形でその出来事を“料理”することができる。“料理”すれば心がすっきりする。また、ブログでコメントを受け付けていないのは、人とやりあったりしたくないからである。こんな流儀を持つ私は、ちょっぴりは厭戦家であると勝手に思っている。

(7月8日記)

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