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2014年4月 3日 (木)

妻のため息

 一週間前のことだが、我が家の光景を一つ書いておきたい。27日の夕方、妻が美容院から帰ってきた。さっぱりと気分転換したはずなのに、夕方も夜も表情が冴えない。そして時々、「はぁー」とか「あーあ」と愚痴が出そうなため息をつくのであった。

 
原因ははっきりしていた。私の趣味が伝染し、妻も将棋好きになっていて、今やトップ棋士・羽生善治三冠の熱烈なファンなのだ。その羽生さんがこの日、三勝三敗のタイで迎えた王将戦の第七局で渡辺明王将に敗れ、タイトル奪取が叶わなかった。羽生さんは挑戦者だったので、勝てば現在の王位・王座・棋聖に王将が加わり、久しぶりの四冠になっていたはずであった。それで妻の口から漏れ出てきたのが、「はぁー」「あーあ」なのである。

 
妻は以前、対局中にずっと応援していたのに羽生さんが負けたことがあり、これに懲りて、対局中は一切進行を見ないようになった。一人のファンが進行を追おうが追うまいが、勝敗に影響する道理はないのだが、妻は<見ないことで陰ながら応援する>という流儀を確立したのである。この日も、夕方に終わった対局の結果(羽生さんの敗戦)を私が伝え、妻の様子に変化が生じたのであった。

 
妻のため息は容易には終わらない。夕食後も「あー、羽生ちゃん負けちゃった」と言い、寝る前も将棋を思い出しては「あーあ」を繰り返した(妻は羽生さんのことを“羽生ちゃん”と呼ぶ)。同じく羽生ファンである私はというと、ついた勝負は終わったこととして、「仕方ない」と心の整理がついているのだが、妻はずっと引きずったままで、翌日までため息が聞こえたのであった。「当の羽生さんはもう気持ちを切り換えて、次の対局に目を向けているはずだよ」と言っても、理屈は分かってもらえても気持ちがついていかないようなのだ。

 
実は今月8日(火)から、羽生三冠が挑戦者として名乗りを上げた、森内俊之竜王・名人に挑む名人戦が始まる。七番勝負で四勝した方が名人位を得るのだが、珍しいことに過去3年間、名人戦は「森内-羽生戦」という同一カードで争われ、いずれも森内に軍配が上がっているのだ。従って羽生ファンにとっては、今年の羽生さんの挑戦は、三度目ならぬ“四度目の正直”といった思いがある。

 王将戦敗戦の数日後、妻は「近くのH神社に行って(名人戦勝利の)お祈りしてこようかな」と口にした。これには同じ羽生ファンの私も驚かされた。
名人戦は、第七戦までもつれたとしても、梅雨時には決着を迎えるタイトル戦である。鬱陶しい季節にかかるが、羽生さんの名人位奪取を願いつつ、今年こそは妻の満面の笑顔を見たい、妻のため息を聞かずに済ませたいと私はひそかに切望している。

(4月3日記)

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